ここ数年、働き方改革の一環として、男性の育児休業取得率の向上に向けて、政府による法改正や育休取得のための啓蒙活動が行われています。
厚生労働省が発表した「令和3年度雇用均等基本調査」によると、直近過去3年間の男性の育児休業取得率は、平成30年度は6.16%、令和元年度は7.48%、令和2年度は12.65%、令和3年度は13.97%と増加傾向にあります。
しかし、一部の職場では、経営者や人事部門の育児休業取得制度への理解不足や協力不足、育児休業取得希望者と上長との価値観のギャップによる育児休業取得の抑圧や退職勧奨などにより、依然として育児休業や有給休暇を取得しにくい環境に置かれています。
そのような状況の中、働き方改革の観点から、男性社員の仕事と家事育児の両立を目指す、いわゆるワークライフバランスに取り組む会社も増えています。
ワークライフバランスへの取り組みを標榜することで、会社のイメージアップも期待できることから、「男性の育児休業取得率100%」をPRする会社もあるほどです。
「育児休業取得率100%」と聞くと「社員にやさしいホワイト企業」という印象を受けますが、実際のところはどうでしょうか。
筆者「キャリアリカバー®」プロフィール
- 国家資格キャリアコンサルタント(登録番号16062528)
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企業・学校・心療内科・就労支援機関 - 心療内科クリニック「キャリアデザイン」講師&キャリアカウンセラー
精神疾患や発達課題を抱えた患者さんの復職・就職支援プログラムの企画・運営 - 数多くの失敗や負の経験からの脱却
転職7回・ニート2年・被パワハラ・事業縮小による解雇等 - ワークライフバランス重視
男性育休6か月取得、共働き家庭、二児の父、家事は料理を担当。遊びもゲームもブランクもキャリア♪
育休取得率と育休取得期間の実際は?
育休取得率の計算方法は?
育児休業取得率の計算方法は「令和3年度雇用均等基本調査」によると、次のように示されています。
育児休業取得率=出産者のうち、調査時点までに育児休業を開始した者(開始予定の申出をしている者を含む。)の数÷調査前年の9月30日までの1年間(※)の出産者(男性の場合は配偶者が出産した者)の数
(※)平成 22 年度までは、調査前年度1年間。
引用元:厚生労働省ホームページ「令和3年度雇用均等基本調査」
なお、2023年4月より、従業員が1 ,000人を超える企業は、男性の育児休業取得率等の公表が義務付けられました。
公表内容は下記の①または②のいずかれかで、それぞれの計算式は次の通りです。
①育児休業等の取得割合
育児休業等をした男性労働者の数÷配偶者が出産した男性労働者の数②育児休業等と育児目的休暇の取得割合
(育児休業等をした男性労働者の数+小学校就学前の子の育児を目的とした休暇制度を利用した男性労働者の数の合計数)÷配偶者が出産した男性労働者の数※育児休業等とは、育児・介護休業法に規定する以下の休業のことです。
・育児休業(産後パパ育休を含む)
・法第23条第2項(3歳未満の子を育てる労働者について所定労働時間の短縮措置を講じない場合の代替措置義務)又は
第24条第1項(小学校就学前の子を育てる労働者に関する努力義務)の規定に基づく措置として育児休業に関する
制度に準ずる措置を講じた場合は、その措置に基づく休業
これらの計算式は、育休取得者の数には反映されていますが、育休取得期間には反映されていません。
それでは、育休取得期間と育休取得率の関係はどのようになっているのでしょうか。
育休取得期間が1日でも育休取得率100%
実は、育児休業を1日でも取得すれば、育児休業取得者として1件カウントされます。
極端な話、男性社員全員がたった1日だけ育休を取得したとしても、男性の育児休業取得率は100%となります。
そうなると「男性の育児休業取得率100%」を標榜している企業の平均取得期間はどの程度かが気になるところです。
それでは、男性の育休取得期間の実際は、どのようになっているのか見てみましょう。
育休取得期間は、4人に1人が5日未満、半数以上が2週間未満、6か月以上は5.5%
以下の表は、厚生労働省が発表した「令和3年度雇用均等基本調査」における男性育児休業取得期間の調査結果です。
男性育児休業取得者のうち、育児休業期間が5日未満から2週間未満の割合は、平成27年度が74.7%、平成30年度が71.4%、令和3年度が51.5%となっています。
一方、1か月以上から6か月未満の割合は、平成27年度が22.1%、平成30年度が24.5%、令和3年度が42.8%。
6か月以上の割合は、平成27年度が1.2%、平成30年度が4.0%、令和3年度が5.5%という状況です。
この数年間で、5日未満の割合が56.9%から25%に減少、5日以上の割合が44.1%から75%に増加、特に1か月~3か月未満の割合が倍増しています。
このことから、男性育休取得期間は年々長くなっていると言えるでしょう。
しかし、全体の4社に1社が5日未満、半数以上が2週間未満と、女性の育休期間に比べて大幅に短く、家庭において男性の育児が機能を果たしているのか疑問が残ります。
せっかく育児に慣れてきたころに育休を終了してしまうのは、夫や妻にとっても、そして何より子どもにとっても、もったいないという印象です。
ちなみに、共働き家庭の夫である私は、第二子誕生時に6か月の男性育休を取得しましたが、それでも非常に短く感じました。
本当は1年取得したかったのですが、育休取得期間が6か月を超えると育児休業給付金の給付率が下がってしまうなどの理由で、やむを得ず6か月で職場復帰することにしました。
育休を取得予定の方で育休期間について検討されている方は、「キャリアコンサルタントの男性育休体験談」も参考にしてみてください。
育休取得率だけなく育休取得期間も重要
育休取得率を上げるだけでなく、育休取得期間を延ばす取り組みを
会社としては「育休取得率100%」というインパクトのある数字を掲げることで、自社のブランドイメージ向上や、人材の獲得および定着化などの思惑があるのではないでしょうか。
しかし、いくら取得率の高さだけをPRしても、実際の取得期間が数日程度では、果たして社員やその家族の視点に立った取り組みなのか疑問が残るところです。
男性育休取得率の高さに惹かれて入社にもかかわらず、ふたを開けてみたら数日しか取得できない現状を目の当たりにしたときの失望感は大きいものです。
そして、その不満がSNSなどでつぶやかれ、メディアなどで取り上げられてしまうと、かえって会社へのマイナスイメージが助長される恐れがあります。
そのような状況を回避するためには、育休取得率を上げるだけでなく、育休取得期間を延ばすための取り組みを行うことが重要となります。
期間の長い育休取得は会社にとってもメリットが大きい
会社側としては、まずは上層部の育休取得に対する考え方を柔軟にするための取り組みを行うとよいでしょう。
現在の育休取得状況を見てみると、おそらく上層部の方々の多くは、期間の長い育休取得についてどちらかと言えば否定的で、また、ワークライフバランスを意識して働いている方は少ないものと察します。
そこで、「育休→戦線離脱→キャリアダウン」という考え方から「育休→家事育児経験の増加→キャリアアップ」と捉えてもらえるよう、考え方を変えてもらうような働きかけを行います。
たとえば、育休の取得が家庭と自分にどのような恩恵をもたらしたのか、職場復帰後の家事育児経験が仕事にどのように転用できるかなど、育休の取得が職場復帰後のキャリア形成に役立つことやコストパフォーマンスの高い仕事を生み出せる期待があることを、総務人事部門が中心となって啓蒙します。
このような働きかけを行うことで上層部の育休取得への理解を促進し、社員が安心して仕事や家事育児に専念する環境をつくることができれば、社員の帰属意識の向上や定着率の向上も期待できます。
育休を取得する側も家庭をしっかりサポート
一方、育休を取得する側も、家族のために家事育児をしっかり行い、復職後に育児や家事の経験が仕事に役立つことを会社や上層部と共有することが重要です。
こうすることで、育休取得の意義や成果が会社や上層部に伝わります。
さらに、復職後に育休取得で培った知識や経験が仕事で成果を上げるレベルまでに発展すれば、育休取得へのイメージが好転する可能性もあります。
しかし、男性育休取得者の一部は、残念なことに、家事や育児は妻に任せっきりで、自分は毎日ゲーム三昧といった、いわゆる「とるだけ育休」や「名ばかり育休」生活を送られる方もいるようです。
これでは、どんなに長期間の育休を取得しても家事育児を通したキャリア形成は難しいですし、会社側にとっても男性育休取得の促進にブレーキをかけやすくなってしまうことでしょう。
転職や就活中の育休取得状況に関する質問で、従業員を大切にする会社かどうかを見抜く
もし、就職活動や転職活動中の方で、ブラック企業を回避したい方や、ライフキャリア重視の働き方を希望される方は、会社説明会や面接で直近3年間の男性の育休取得率と平均育休取得期間をセットで質問してみましょう。
そうすることで、男性の育休取得状況がよりリアルに把握できます。
さらに、この質問を通してチェックしておくとよいポイントがあります。
それは、この質問に対する企業側の態度です。
男性育休について好意的でない企業は、育休取得率と育休取得期間の質問を受けた際、採用担当者の表情の雲行きが怪しくなったり、態度が一変したりする可能性があります。
質問の際は、回答内容に加え、その際の採用担当者の表情や態度もチェックすることで、本当に社員を大切にしている企業かどうかが見えてきます。
ブラック企業の見分け方については、こちらのサイトでもご紹介しています。
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育休取得率は100%を超えることもある
育休取得率が100%を超えることもあります。その場合は、以下のようなケースが考えられます。
事業年度をまたがって取得した場合
先述の育休取得率の計算式をざっくり表すと下記のようになります。
女性:育児休業等をした労働者の数÷出産した労働者の数
男性:育児休業等をした男性労働者の数÷配偶者が出産した男性労働者の数
「事業年度をまたがって取得」というのは、当年度に育休取得が可能となった労働者が、当年度には取得せずに、翌年度に初めて育休を取得した場合に該当します。
例えば、2022年10月に育休取得が可能となった労働者が10人いて、そのうち4人が2022年10月に育休を取得し、残りの6人は2022年度中には育休を取得せず、2023年4月に育休を取得したとします。
この場合、2022年度の育休取得率は4人÷10人×100%=40%となります。
その後、2023年度に入り、2023年10月に育休取得が可能となった労働者が新たに10人発生、そのうち5人が2023年10月に育休を取得したとします。
この場合、2023年度の育休取得率は、(6人(2022年度中に育休取得が可能となったが2022年度中に育休を取得せずに2023年度に育休を取得した人の数))+(5人(2023年度中に育休取得が可能となり2023年度に育休を取得した人の数))÷10人×100%=110%となります。
なお、こちらはあくまでもざっくりとした算出方法です。
条件等によって異なりますので、詳しくは厚生労働省のホームページもご覧ください。
なお、本サイト運営のキャリアリカバーでは、6か月の男性育休取得経験や、心療内科でのキャリアプログラムの実績を持つ、国家資格キャリアコンサルタントが、キャリア上の悩みを解決するためのキャリアカウンセリングを行っていますので、お気軽にご相談ください。